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永峰潤ブログ
永峰・三島会計事務所、かなり不定期な所長のブログ。

会計によるソフト・ウォー(承前)

 だいぶ間が開いてしまいましたが、時価主義至上主義と経済的実態アプローチ原理主義に関する私の考えを述べます。

 ルカ・パチオーリの昔から実に500年の長きに亘って会計が堅持してきた大原則があります。  

 取得原価主義です。  この原則は取得時に支払った対価(=現金)で資産の価額を記録し、その後は資産に含み益や含み損が発生しても資産の価額には影響を及ぼさないというものです。  実際には保守主義の考え方から、含み損の場合、評価損は参酌します。 つまり一旦購入した資産はその後の物価変動の影響を受けないと言う原則です。

 この原則では、例えば製造業者が自社の工場建設のために土地を購入した。 その後、土地が値上がりしても、その評価益部分はバランスシートには反映させないことになります。  ただし銀行はこの含み益部分を考慮して融資額を決定することにはなりますが、会計的にはこの含み益部分は認識しません。 この理由は、①含み益が顕在化するのは土地を売却した時しかない、②売却した時は製造業者が業務をたたむとき、すなわち清算するときであり、継続企業(Going concern)を原則として作成しているバランスシートの考え方と折り合わない。

 このような理由から取得原価主義が会計の大原則とされていました。 ちなみにこの理由は私が留学する時(1984年頃)に購読した米国のポピュラーな会計学の本に、はっきり書かれていたのを覚えています。

 このように500年の歴史の帳を破る大事件が昨今の時価至上主義です。 この考えたかは、凡そ全ての資産を将来、当該資産が生み出すであろう将来キャッシュ・フローを算定し、そのキャッシュ・フローを現在価値に割り引く、この割引現在価値と取得時の時価とを比較して(評価益)・評価損を計上しよういう考えを徹底的に実践することを要求するものです。

 この考え方に通底しているのは、企業価値の評価に関する会計とファイナンスの長きに亘る対立に終止符が打たれたということです。 勝者はファイナンスです。 そもそも論で言えば会計の取得原価かファイナンスのDCFか、どちらが企業価値を測定するかという論点には、時間的には約20年位に亘る論争があり、ファイナンス勃興時には時価主義は劣勢だったのですが、ここに至り完全にファイナンスに軍配が下った感があります。  

 以前書いていますが、私が3年位前にスタンフォード大学のファイナンス講義を受講した際、ファイナンスの教授が「会計数字の表す貸借対照表は無価値である。 企業価値はお金を生み出す価値でしか計れない!」と言い切ったことが正に今、現実となったということでしょう。 ちなみにスタンフォードの会計学の教授がIFASで時価主義を強烈に主張する一派であるというのも興味あることです。

 私は、時価主義の徹底化には非常に胡散臭いものを感じています。 その理由はとっても簡単で、「地上のいかなる者が将来のキャッシュ・フローを正確に予測できるの? それって預言者?」ということです。

 欧米のロジック中心のアプローチ、所謂三段論法はある前提の下での結論までの導きに、それこそ細心の論理的一貫性を追求してできあがっています。  結果としての結論には文句の付けようが無いかもしれません。 でも、現実問題として、前提たる将来予測ってどんだけのものなの!? というのが私の素朴な疑問なのです。 最近では退職給付会計における将来負債を現在価値に割り引くときの割引率がありました。 割引率が1%違うだけで大企業ならばそれこそ何十億、何百億の差額がでます。 これって一体誰がこの割引率で正しいって裏書きできるのでしょうか。 あるいはアクチュアリなる専門家が将来の退職者数を統計的に予測するという手続にしても、アクチュアリの能力の巧拙によって多額の負債差額がでることはよく知られている処です。

 このような理論のヨロイを被った、人をたぶらかすかのごとき議論を支えているのは、はっきり言えば米国式資本主義とそのメカニズムだと思っています。

 米国の産業はもはや金融市場が実物経済を支配する構造となっており、その構造によって利益を得る多くの市場関係者によって、会社の価値を株式の価値と連動して捉えるという考え方に極めて親和性が強い時価主義が大変に便利なものなのであるからこそ、時価主義が経済界(金融界?)から支持を得たのではないだろうかと思っています。

 現に米国でも、つい20年前、すなわち現在ほど資本市場と実物経済との関連性が緊密でなかった頃は、企業経営者は経営にあたって、会社のバランスシートや株価には余り注意を払っていなかったと記憶しています(当時のGMの経営者はB/Sは重視していないと明言していました)。  

 その考えが劇的に変わったのはストック・オプションの登場だと確信しています。

 20世紀最大の発明と言っていいストック・オプションは、それまでのビジネスのデファクトであった所有と経営の分離および専門的経営者という職業が、SOを通じて専門的経営者が株式を持ち、その故に株主と同じ視点に組み替えられたわけです。

 所有と経営の融合という考え方が新たなビジネスの考え方となり、経営者も株主も同じ目線=自分の会社の価値の不断なる増加が会社存続の究極的目標と変質しました(つまり、それまでの経営者は株価の上昇下落は自分の報酬とは連動していなかったのですが、SOによって株価の変動が自らの報酬に直接に連動する仕組みに組み入れられてしまったわけです)。

 株主価値というものを創造するひとつの考え方(フィクション?)としてファイナンスの世界で用いているDCF法やそれを本籍地とする各種の時価主義が、理論的背景として大変に都合がよかったため、ここに資本市場とそれに参加する多くの参加者から従来の取得原価主義に代わるものとして時価主義が拍手をもって迎えられた。 このような図式ではないでしょうか?

 我が国でも4半期決算が義務づけられましたが、この制度自体、米国で導入されたのはつい最近です。 4半期決算は短期的に利益を発表することによって、株主に会社への投資意欲を継続して持ち続けさせ、その結果如何によって会社の価値増加と経営者の保有株価があがることに大変に都合がいい仕組みです。  この仕組みを最もうまく利用したのがGEのウェルチであることは米国では周知の事実です。

 このような背景のもとに時価主義者が大手をふるっているのが、今の会計の一つの潮流であろうと私は考えています。

以下つづく
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【2008/08/14 12:09】 未分類 | トラックバック(0) |

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